2009年 薬木薬草園通信

1月号/vol.79 クワズイモ2月号/vol.80 トベラ3月号/vol.81 スギ4月号/vol.82 エニシダ5月号/vol.83 アマドコロ6月号/vol.84 クララ7月号/vol.85 トウネズミモチ8月号/vol.86 ケイトウ9月号/vol.87 キンモクセイ10月号/vol.88 フジバカマ11月号/vol.89 イチョウ12月号/vol.90 ナンテン
クワズイモ 1月号/vol.79
用部:根茎  生薬名:広狼毒(コウロウドク)用途:抗菌、去痰など
寒い風が吹き抜ける外から温室に一歩入れば、体を包むほんわかと柔らかな空気。冬でも暖かな温室の中では、南の国の植物たちがすくすくと成長し、緑の葉を茂らせています。
つややかな緑の葉がひときわ目立つのがクワズイモ。サトイモに似ているのに、食べることができないから “食わずイモ”と名づけられました。茎は人の背丈を超えるほど。葉は長さが60センチ以上。雨が降ったときには、雨傘にできそうな大きさ。象の耳を連想させることから、“エレファント・イヤー”とも。
雨上がり。きらきらの雨粒をのせたクワズイモの傘。その先に見上げた空には、大きな虹の橋が架かっているかも。
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トベラ 2月号/vol.80
用部:枝・葉  生薬名:海桐(かいとう)用途:通経・解毒・止痛など
暦の上では立春を迎えるも、まだまだ寒く、暖かい季節が待ち遠しい今日この頃。
乾いた詰めたい空気の中で、つやつやとした葉を茂らせているトベラは、春には香りのよい白い花を咲かせ、秋から冬には実を結び、熟すと裂けて、仲から赤い種が姿を現します。種は粘着質で、鳥のくちばしなどにくっつき、どこか遠くの街へ。
街路樹や庭木としてだけでなく、潮風にも強いので海岸近くに防風林として植えられることもあります。葉を火にくべると、パチパチとおとがして、その音に驚き鬼が逃げていきます。だから、節分には家の玄関に鰯の頭やヒイラギと一緒に飾って、魔除けの御守りに。
扉に飾る木であることからトビラが訛ってトベラになったこの木。
悪い鬼を追いはらい、家に福を呼び込むためのお守りとなってくれる頼もしい木です。
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スギ 3月号/vol.81
薬用部:樹幹、樹皮、葉、種子、木タール 用途:殺菌、収れん、止痛など
サクラの便りよりも早く、届き始めた「花粉」の便り。鼻がむずむず。目がむずむず。花粉症の方には大変な季節です。
そんな症状を和らげるには、花粉症の原因でもあるスギを使った「杉の葉茶」を飲むと良いという話があります。これは予防接種のようなもの。体内にはない花粉に体が反応して起こる花粉症。「杉の葉茶」で体の中にスギを取り込むことで、免疫を作ってしまおうというのがこの考え方。もちろん効果は人それぞれですが、「杉の葉茶」を飲むことで鼻通りが良くなったり、目の痒みが落ち着いたりすることもあるそうです。
恨みがましくスギの木を見上げるよりも、スギの葉をちょっと頂いてお茶にしてしまいましょう。スギと仲良くなれたなら、春の花からの便りがあなたの鼻に届くかもしれません。
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エニシダ planta genesta 4月号/vol.82
生薬名:金雀枝  薬用部:枝、茎葉  用途:利尿、止血、不整脈など
凍てつくような冷たい空気が、ふんわり暖かな空気に変わり始めたこの頃。一歩外に出れば、寒い冬を乗り越えた花たちの春の息吹を感じます。そのひとつが、今月の主役、エニシダ。地中海沿岸原産で、樹高1〜3mほどのこの植物は、春に若々しい緑の枝に、黄色い花を咲かせます。それはまるで小さな黄色い蝶々が枝に止まり、仲良く羽を休めているかの様・・・。
エニシダはイングランドを治めていた王朝の名にもなっています。フランスとイングランドを広く治めたアンジュー家。その紋章はエニシダの枝花。それはやがて家名となり、今に伝えられています。金色に輝くエニシダの花。
中世に遡れたならば、貴族の帽子に、衣に、優雅に揺れるエニシダを見ることができるかもしれません。
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アマドコロ 5月号/vol.82
生薬名:ギョクチク・イズイ  薬用部:根茎  用途:滋養強壮・捻挫・胃潰瘍・胃炎など
名まえが甘くておいしいお茶屋さんのような「アマドコロ」。その由来は、根茎部がトコロという植物に似て、ほのかに甘いからだとか…。
草丈は40〜70p。茎は首をかしげているかのようにゆるやかなアーチを描き、春の花が次々と咲き誇る4〜5月に、慎ましやかに可憐な、淡緑白色の花を咲かせます。
こんな恥らう乙女のような植物には保湿、美白、消炎といった女性に優しい作用も。
その効果は、遥か昔に書かれた中国の薬物辞典「本草綱目」に「長く服用すると顔色もよくなり、艶が出てくる」と書かれているほど。
昔の女性たちも、今と変わらず、美のための努力を惜しまなかったのでしょう。
アマドコロのように色白の愛らしい女性に…。風に揺れる花に、そっと願ってみたりして。
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クララ Sophora flavescens Aiton 6月号/vol.84
生薬名:苦参・眩草   薬用部:根  用途:健胃・鎮痛・解熱・湿疹など
クララは、本州、九州の日当たりの良い山地や草原に見られるマメ科の多年草。別名、マトリグサ。
草丈は80〜150cmの比較的大きな植物で、スラッと天高く伸びる細い茎に、多数の淡黄色の花を穂状に咲かせます。
クララといえば、「アルプスの少女ハイジ」のあの可愛らしいクララを思い浮かべますが、植物のクララの名前の由来は、根を噛むとクラクラするほど苦いから。ちなみに、クララは強い毒草です。
しかし毒があっても、オオルリシジミという蝶の仲間は、幼虫の時にクララの蕾を食べて育ちます。阿蘇や九重の草地では、5、6月にクララの周りを飛ぶオオルリシジミの姿を見ることができます。
淡い黄色の花の周りでワルツを踊るように舞う、瑠璃色のオオルリシジミ。そんな風景を、一度は見てみたいですね。
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 トウネズミモチ Ligustrum lucidum Ait 7月号/vol.85
生薬名:女貞子・女貞葉  薬用部:果実・葉  用途:滋養強壮、強心、利尿、解熱、鎮痛など
トウネズミモチは、中国原産で日本各地に見られるモクセイ科の常緑小高木。初夏に眩い小さな白い花は、遠くから見るとまるで綿菓子のように、ふんわり、こんもりと、房になって咲いています。
日本のネズミモチの葉に似ていることから、唐(中国)原産のネズミモチ、「トウネズミモチ」と名づけられたこの植物。ネズミモチとの違いは、トウネズミモチの方が、葉がちょっぴり大きく、よりたくさんの花を咲かせること、そして冬が来ればこぼれんばかりにたくさんの紫黒色の果実を実らせること。
この果実は“女貞子(じょていし)”といい、滋養強壮や強心、利尿のくすりになります。
草木も凍える12月。トウネズミモチの周りには、鳥たちのさえずりと羽音が響きます。ついばまれる果実は鳥たちの冬を乗り越えるための栄養源。すっかり淋しくなった枝。それでも、トウネズミモチはきっと幸せなのでしょう。
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ケイトウ Commn Cockscomb 8月号/vol.86
生薬名:鶏冠花 薬用部:花、種子 用途:止血、下痢、便血、凍傷など
胸を張り堂々と歩く雄鶏の、鮮やかな赤いトサカ。そのトサカに似ていることから、「ケイトウ(鶏頭)」と名付けられた個性的なこの花は、英名でも「Cocks-comb」=「鶏のとさか」。世界中の人々が、この花に同じイメージを抱いています。暑さの盛りを迎える8月に満開になる、赤、ピンク、橙などの花。日本には遥か昔、中国から朝鮮半島を経由して伝えられたといわれており、「万葉集」では「韓藍(からあい)」の名で詠われています。
刺すような陽射しのもとに咲く、ケイトウの花。心揺さぶる、おしゃれで、鮮やかな花に、いにしえの人々も目を奪われていたのでしょう。
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キンモクセイ Osmanthus fragrans Lour. var. aurantiacus Makino 9月号/vol.87
生薬名:金木犀 薬用部:花 用途:胃炎、低血圧症、不眠症など
台風の風が暑さを吹き飛ばし、じりじりとした日差しも和らぐ9月の終り。どこからか、甘い香りの便りが届き始めます。目を閉じて、深く深呼吸。心を落ち着かせてくれる芳しい香り。
その香りの主は、キンモクセイ。春のジンチョウゲや、夏のクチナシほどの強い香りを放ちながら、でも、その金色の花はとても小さく可憐。咲いているときはあまり目立ちませんが、花が終わり、散ったあとは、金色の粉雪が降り積もったかのよう・・・。
満開のときも、そして儚き命がつきてしまった後も。私たちを楽しませてくれるキンモクセイ。その魅力からか、市町村の木に指定している自治体も多く、佐賀県鹿島市もその一つです。秋の深まりを告げるキンモクセイの香りは、移ろう季節に疲れた人々を癒してくれることでしょう。 
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フジバカマ Eupatorium fortunei 10月号/vol.88
生薬名:蘭草 薬用部:全草 用途:血糖降下、利尿、解熱など
紫式部がこよなく愛したフジバカマ。千年以上も昔。想いよ届けと、恋の歌と共に愛する人に贈られた花。
秋を象徴するフジバカマは、秋の七草の一つ。花は藤色がかった白。平安時代、秋の河原や野辺のそこかしこには、フジバカマの花が咲き誇っていたものでした。乾燥させた花は桜餅のように甘く香り、そっと十二単にしのばせることもあったとか。
「やどりせし 人のかたみか 藤袴 わすられがたき 香ににほいつつ (紀貫之/古今和歌集より)」
愛する人の香り。それは儚く思えても、永久に消えることのない香りだったのでしょう。そんなフジバカマも、今では準絶滅危惧種…。姿を消しゆく秋の野とともに、野生種はほとんど見ることができなくなりつつあります。
淡い藤色の花を。甘い香りを。多くの人々が愛した花を、思い出の中にではなく、未来にも、美しく咲かせていたいものです。
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イチョウ Ginkgo biloba 11月号/vol.89
生薬名:銀杏・公孫樹 薬用部:種子 用途:鎮咳、去痰、夜尿症など
まるでアヒルの足跡のような形の、黄色く色づいた葉。可愛らしいくぼみの入った扇形は、イチョウの葉ならでは。そんな黄色い並木道は、素敵な世界に導いてくれるかのようです。
秋になるとこぼれんばかりに実る小さな実こそ、秋の味覚、銀杏。茶碗蒸しに、酒の肴に、食べだすとついつい止まらない美味しさ。
しかし、生のまま食べたり、たくさん食べ過ぎたりすると中毒を起こすことも…。また、銀杏の外側の柔らかい皮は素手で触れるとかぶれてしまうことも。
そんな銀杏にも、咳を鎮め、夜尿症を抑える薬効があり、昔から夜寝る前に歳の数だけ火を通した銀杏を食べさせるとよいとされてきました。きっと多くの子どもたちが銀杏に救われたことでしょう。
天まで届きそうなイチョウの木。見上げた空にはいつのまにかオリオン座が。冬の訪れは、もう間近・・・。
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ナンテン Nandina domestica Thunb. 12月号/vol.90
生薬名:南天葉・南天実 用部:葉・果実 用途 :鎮咳、解熱など
四国や九州など、暖かな地域で見られるナンテン。初夏には真っ白で小さな花、晩秋から初冬には深紅の実。
おめでたい白と赤の色。「難を転じる」に通ずる「ナンテン」の名前。そのため、この木はむかしから縁起のよい木とされ、家の鬼門や裏鬼門などに多く植えられました。また、ナンテンの葉には殺菌作用があり、料理の飾りにも。赤飯の上に添えられたナンテンは彩りとともに、赤飯が悪くなるのを防ぎます。
木枯し吹きすさぶ冬。ナンテンの紅い実の周りにはおなかを空かせたヒヨドリたち。ただ、ナンテンはその実を食べつくされることを防ぐためか、少しの毒を含んでいます。だから、ヒヨドリたちは少し啄ばんでは、別の木へ。そしてナンテンの種は遠くへ運ばれていくのです。
迎える2010年の春。厳しい寒さに耐えた種が、どこかで芽吹いているかもしれません。
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