2010年 中冨記念くすり博物館だより

1月号/No.176 ビワ2月号/No.177 コブシ3月号/No.178 オキナグサ4月号/No.179 クワ5月号/No.180 ノイバラ6月号/No.181 シソ7月号/No.182 ブルーベリー8月号/No.183 ハトムギ9月号/No.184 ヤブラン10月号/No.185 ソバ11月号/No.186 ヒメジョオン12月号/No.187 ヤツデ
ビワ 1月号/No.176 
冬の空はくすんだ青で、木々は凍えるよう。 しかし、分厚い緑色の葉を艶々と茂らせ、花まで咲かせた植物が。それは、ビワ。鮮やかな黄色の果実を結ぶ初夏。その甘い果実は食用となり、種子は枇杷仁という生薬名で、咳止めなどに用いられます。
でも、昔からくすりとして用いられてきたのは大きな葉。その葉を煎じたものが枇杷葉湯。飲めば暑気あたりや腹痛、夏風邪、咳止めの特効薬です。また、刻んで酒に浸したものを湿布すれば、打身、捻挫を癒やし、沸かした風呂に煎じた汁を入れればあせもや湿疹に効く薬湯に。
散ることのない大きな葉、それは私たちを守り、癒やそうと冬の寒さも乗り越えて。
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コブシ 2月号/No.177 
ぷっくりと膨らんだ実。まるで子どもの握り拳(こぶし)のよう。それが名前の由来であるコブシは、桜より早く春の訪れを告げてくれます。 純白で、清楚なコブシの花。咲く頃を目安に農作業を始めていた人たちの間では、「田打ち桜」と呼ばれていたといいます。
日本では生薬名を「辛夷(しんい)」といい、北海道から九州まで広く生育しています。くすりとなるのは開花前の蕾(つぼみ)で、鼻炎や蓄膿症の改善に用いられます。
やわらかな花びらが散ると、小さな握り拳のような実が。
その中にぎゅっと詰まっているのは、きらきらと輝く瞳をした子どもたちの夢や希望なのかも。未来への期待がこぼれ落ちないように、固く固く手のひらを結んで…。
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オキナグサ 3月号/No.178 
春の陽だまりに、うつむいて咲くオキナグサ。天気のよい日中だけ開くその花色は深い赤紫をしています。本来であれば、本州、四国、九州の原野で見ることのできる普通主だったのですが、業者や愛好家が絶滅にいたるまで採取してしまった場所もあり、今では“幻の花”といわれることも。
根に強心、鎮静などの効果があり、その生薬名は「白頭翁(はくとうおう)」。名前の由来は、花が咲いた後にできる大きな白い毛玉を白髪頭の老人(おきな)に見立てたことによるそうです。
昼に花開き、夜には閉じて。
数日間、そうして開閉を続けると、うつむいていた花柄は真上にむかって伸び始めます。
なんとも不思議な、そう、幻の紅い花。
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クワ 4月号/No.179 
蚕を育て、生糸を作る養蚕業が盛んだったのは、昭和も半ばまでの風景。その蚕の飼育に欠かせなかったのがクワです。
そして、ほんのひと昔前まで、そのクワの実は子どもたちのおやつ代わりでした。
実は柔らかいキイチゴのようですが、色は赤紫。
それが黒紫色になれば食べごろで、たくさん食べると口も舌も紫色に。
食べ過ぎれば、すぐに親にばれてしまったそうです。
最近は蚕のエサではなく、人がくすりとして用いるようになったクワ。葉は生薬名を桑葉(そうよう)と言って熱を下げ、桑白皮(そうはく)と呼ばれる根皮は咳を鎮めるときに処方されます。
童謡の赤とんぼで“山の畑の桑の実を籠に摘んだは…”と歌われるように、昭和の始め頃までは。山に原野に広がっていた桑畑。
甘酸っぱい実を頬張れば…。遠い遠い幼き日々の想い出が、今も鮮やかに。
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ノイバラ 5月号/No.180
日当たりの良い場所に自生するノイバラ。他のものに寄りかかり、よじ登るように蔓を伸ばしては枝葉を広げます。花の愛らしさに惹かれ、手を伸ばすのに、邪魔をする鉤形(かぎがた)の棘。覚える痛みで紛れもなくバラであるということに気づかされます。
5枚の花弁が散ると、そこには丸い果実が。秋に赤く熟すその実は、生薬の営実(えいじつ)です。
日本では便秘や利尿剤として用いられ、中国では解熱、解毒、腫れ物の治療に使われています。ノイバラの名は野山に多く見られるからなのか、野の荊(いばら)の意味なのか―。
別れを惜しみ、纏わりつく愛しい人。別れの時を迎えても離れようとしない人を、ノイバラに絡みつく蔓豆のようと譬え、詠ったのは丈部鳥(はせつかべのとり)。落葉してもいつまでも残る赤いノイバラの実は、女性が流した悲しい涙のよう…。
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シソ 6月号/No.181
何事もほどほどであれば長生きできる。そんな養生法を説き、江戸時代においては驚異的な長寿であった儒学者、貝原益軒。彼の著書である「大和本草:を辿れば、“その紫蘇子(しそし)は血行をよくし、寒を去り、内を温め、風邪を去り・・・”と。
シソにはとても多くの薬効があります。
現代の食卓でもその活躍は広く、梅干の色づけやショウガ漬けに欠かせない紫の葉。刺身のつまや天ぷら、ドレッシングでお馴染みなのが青ジソです。シソの葉には殺菌、防腐、解熱、解毒作用があり、生薬名は紫蘇葉(しそよう)。発汗作用もあるので、ほかの生薬と配合して風邪ぐすりに使われることも。種の紫蘇子(しそし)は咳や痰をとり、茎葉即良く不振や消化不良などを解消します。
深い赤紫色の柔らかな葉。一昔前まで、誰もが信じてたはず。 死者をも蘇らせる“神秘の紫”であると…。
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ブルーベリー 7月号/No.182
春に咲いた真っ白な釣鐘状の花が過ぎ、陽射しが夏に変わるころ、青紫色の実を結ぶルーベリー。ぱくん、と口に含めば、甘酸っぱさは広がります。
ブルーベリーの歴史の始まりは、今から400年ほど前。
野生種のそれは、ネイティブアメリカンの食生活には欠かせないものでした。
ヨーロッパからの移住民は、分けてもらったブルーベリーのおかげで、冬の厳しい寒さと飢えをしのいだとされています、
アメリカでの別名、“命の恩人”と呼んでいるのは、そんな理由からです。
日本へ伝わったのは、1951年(昭和26年)。一躍注目されるようになったのが、1990年以降。研究科によって視力の改善や抗酸化作用に有効とされるアントシアニンが豊富に含まれていると分かったからです。
細い枝先にその実を見つけると、暑い暑い夏の始まりを感じます。夏の扉が開いたことを・・・。
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ハトムギ 8月号/No.183
夏から秋へと季節が移ろう頃。秋風にさざめくハトムギの細く長い葉。長けたか伊勢がうなだれ始めたのは、果実がたわわに実ってきたから。
このジャ実、子どもの頃に夢中で集めたジュズダマの実に似ているような。
でも、ジュズダマとちがってからはもろく、指でつまめば割れて、中から真珠のような白い種子が、これがよく苡仁(よくいにん)といわれる生薬で、膿、利尿、神経痛、美肌のくすりとして用いられます。
ハトがその実を好んで食べたから、ハトムギと名づけられたのだとか。 健康茶、健康食、美肌、美白のための化粧品など。さまざまな使われ方をしているハトムギに美しくありたいと願う女性の意識は高まります。 澄み渡る秋空の下。ハトムギ畑を吹き抜ける風。
その実を啄ばむ鳥たちのように、女性たちもその実を求め、ふわり、風に乗れることを夢見て。
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ヤブラン 9月号/No.184
日陰に群れるヤブラン。細い何枚もの葉を絡ませ、うっそうとした藪をなし、その中に咲く穂状の小さな花。
葉色の艶やかな緑と薄紫の花、その対照はとても鮮やかで、綺麗。藪の中に咲く蘭に似た花、だからヤブランと名付けられたのだと。
薬用とするのは根で、生薬名は大葉麦門冬。麦門冬という生薬名のジャノヒゲの根と同じ、咳止め、滋養強壮などに用いられます、麦門冬の代わりに処方されることもあります。
夏が終わりに近づくと、咲きはじめるヤブランの花。その生命力は強く、花は長く咲き続け、やや肉厚の濃い緑の葉は寒さで枯れることもありません。
乾ききらない地面と木漏れ日の中で―。
木陰の小さな藪。
そこで見つけるのは、生きるためのたくましさ。
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ソバ 10月号/No.185
花は白、茎は赤、葉は緑、根は黄、そして実が黒色をした5つの色のあるソバ。花の可憐さ、魅了的な色彩が詩情を誘います。
荒れ地でも育ちやすいソバ、日本での始まりは定かではありませんが、今から3000年前、縄文時代後期の遺跡にその痕跡があるそうです。現在のように麺として食され始めたのは1600年ごろ。大衆食となったのが1700年代で、この頃には引っ越し蕎麦、振る舞い蕎麦などが風習になろうとしていました。
種が蕎麦(きょうばく)、茎葉は蕎麦桔(きょうばくけつ)と呼ばれ、それらは生薬として腫れものなどに用いられます。
戦前の蕎麦は、「粋な食べ物」でした。間食や風呂屋帰りに、一杯飲みながら蕎麦を。これが江戸っ子の粋。そんな関係で、戦前の蕎麦屋は夜中の2時頃まで開いていました。
恰好よく、蕎麦をたぐる(※すすること)。日本人が忘れかけている“粋な娯楽”をそこに見るようです。
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ヒメジョオン 11月号/No.186
白く細い花びらを無数につけるヒメジョオン。
明治時代の初めに北アメリカより渡来した植物ですが、今ではすっかり日本の秋に溶け込んでいます。
色づく秋を背景に咲く、白がとてもきれい。ふと目に入りこんだ風景にヒメジョオンを見つけると、秋ならではの緩やかさを感じます。よく目にするには、道端です。線路沿いに広がっていることも多く、“鉄道草”と呼ばれていたこともあったのだとか。
若い芽や葉は、天ぷら、おひたし、和え物などにして食用することができ、花と葉に利尿作用もあります。
平地から山間部まで、生命を育む場所を広げていったこの小さな花。どこに、そんなたくましさがあったのでしょうか。 名前にも“小さな”という意味の“ヒメ”という言葉がついているのに。愛らしいヒメこそ、もしかしたら強いのかも。
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ヤツデ 12月号/No.187
ヤツデの木を庭に植えると、病を寄せ付けず、魔よけにもなるのだとか。
古い時代にはヤツデの葉は“テングノハウチワ(天狗の葉団扇)”と呼ばれ、災いを追い払うことができると信じられていたそうです。
開花は秋。11月頃に花穂を伸ばし、黄みを帯びた白色の小花が球状に咲きます。 くすりとなるのはやはり大きな葉。乾燥させたものが八角金盤(はっかくきんばん)という生薬で、咳や痰が出る風邪に用いられます。入浴料にもなるそうで、煮だし汁を入れたお風呂に浸かれば、リウマチや腰痛が和らぐのだとか。
一つ、また一つと生える葉が、掴もうとしているのは無数の光、それとも手に余るほどの幸せでしょうか…。
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