2009年 中冨記念くすり博物館だより

1月号/No.164 オモト2月号/No.165 ニオイバンマツリ3月号/No.166 ハクモクレン4月号/No.167 シロツメクサ5月号/No.168 キリンソウ6月号/No.169 トケイソウ7月号/No.170 オニユリ8月号/No.171 ツルニチニチソウ9月号/No.172 ウド10月号/No.173 ゲッケイジュ11月号/No.174 パピルス12月号/No.175 ヒイラギナンテン
オモト 1月号/No.164 
太く、短い地下茎。大きな株という意味で大本(おおもと)と呼ばれていたのが、名前の由来のオモト。
日陰に強く、四季を通じて緑を保ち。そして、寒気が強まってくると、真紅に色づく大粒の実。万年青と書いて“おもと”であるように、緑色の大きな葉が枯れることはありません。
慶長11年。徳川家康が江戸城に入るとき、オモトの株を床の間に飾り入城したというのは広く知られている故事で、そこから広がった風習の名残が現在の“祝いおもと”です。
徳川家が300年の繁栄を築いたように、オモトを庭に植えると万年も栄えるというので、新築や新居、開店、結婚式などの祝い事で用いられるようになりました。
日本では観葉植物としての栽培が目立ちますが、葉は万年青葉(まんねんせいよう)、茎は万年青根(まんねんせいこん)という生薬です。漢方では強心、利尿薬として用いられます。
千変万化な時を見つめながら―。オモトは青く、今日もそこに。
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ニオイバンマツリ 2月号/No.165 
紫、薄紫、白、と3色の花が、株を覆うように咲くニオイバンマツリ。その艶やかさと強い芳香からしても熱帯性のものとわかるのに、和風めいた植物名に違和感を。一度目にすれば、強く印象に残る植物です。
原産は南アメリカ。ジャスミンに似た香りがするのが特徴です。バンマツリの名前の由来は、外国産の香りのよい花、という意味で、漢字で書くと“蕃茉莉”です。蕃は外国、茉莉はジャスミンを示し、明治時代の終りに渡来した際、そう名付けられました。
一本の樹に3色の花が咲いているように見えるのは、花色が紫から薄紫、そして白へと変化していくから。
類似種にバンマツリやオオバンマツリがあり、混同されることも。ニオイバンマツリは芳香を求め、観賞用に改良された品種ですが、バンマツリの根は利尿剤として用いられます。
南米の大地にそそぐ陽光を好むニオイバンマツリ。
でも、月明かりに照らされる姿こそ、ずっと美しいのでは。 そう、暗闇で甘い香りに酔いしれて…。
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ハクモクレン 3月号/No.166 
陽射しに春がにじみ始めた夢見月。灰色に霞んだ空の下、静かな目覚めを迎えたハクモクレン。
枝先には柔らかな若葉ではなく、大きな花芽。その蕾は、枝が開くより先に開花します。
上向きに半開する大きな花びらは、つややかな乳白色。その眩い白さは枝先に百合の花が咲いている、と言われたほどです。
くすりとしては、同じモクレン属モクレン科のモクレン、コブシとともにつぼみを用います。鼻炎、蓄膿症、鼻づまりなどに効く辛夷(しんい)という生薬として。また、ハクモクレンはモクレンやコブシと同じく、マグノリアという名で香水に使われ、清らかな春風のような香りです。
高く空へ伸びるのではなく、空を追うように枝を広げるハクモクレンの木。枝いっぱいに咲く花を見上げれば、白い鳥たちが集いまどろんでいるよう。
春の訪れを喜び、謳いながら。
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シロツメクサ 4月号/No.167 
春の陽気に誘われ、外を歩けば、いたるところで見かけるシロツメクサ。別名、ミツバやクローバーと呼ばれます。空き地や土手などを青々と埋め尽くしている、あの植物です。
小さな三枚の葉、まっすぐ伸びた茎の先に白い花。子どもの頃、どこまでも広がるクローバー畑で遊んだ想い出を持つ人は多いでしょう。
ヨーロッパ原産のシロツメクサは、日本へはガラス製品とともに渡ってきました。遠い海の向こうの国から、運ばれてくるガラスが割れないよう、梱包の緩衝材に用いられていた白い花。そこから白詰草という和名がついたとされています。
葉は茹でて食用にすることができ、蕾や花穂を日干しにしたものは風邪や便秘に、また痛風の体質改善薬として服用する民間療法もあります。
白詰草の中には、四つ葉、五つ葉を持つものも。四つ葉は十字架に見立てられ、見つけた人には幸福が訪れるといわれています。 そんな話をだれに聞いたのか、夢中になって四つ葉を探した小学校の帰り道。
幸せな気持ちにさせてくれるシロツメクサの想い出は、色あせることなくいつまでも。
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キリンソウ 5月号/No.168 
みずみずしい黄緑色の葉。先の尖った黄色い花びら5枚で、まるで星のような花を咲かせるキリンソウ。
初夏から秋にかけて咲き続ける花。そして、小さな体のどこにそんな力をみなぎらせているのか、乾いた岩場など、ほかの植物達が育ちづらい場所でも岩を割って根を張ります。
キリンソウの若葉や若芽を塩茹でにすれば、春の味覚。古く、江戸時代には、全草を茹でて、乾燥させたものを保存食としていました。
葉をすり潰した汁は、切り傷や虫さされに効きますので、くすりにもなる頼もしい植物です。
キリンソウは麒麟草とも、黄輪草とも書かれます。伝説上の動物、麒麟の黄色の毛に見立てたから、集まって咲く、小さな花が黄色の輪を描くからなど、謂れはさまざまです。
夏の日差しに映える黄緑の葉と黄色の花。小さくともたくましく、夏の野辺で鮮やかに息づいています。
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トケイソウ 6月号/No.169 
ブラジル・ペルーが原産のトケイソウは、巻きひげを使って他のものに絡みつきながら生育します。直径10cmほどの大輪の花は白っぽく、花びらの縁取りは青紫。せり出している巨大な3本の雌しべと5本の雄しべ、花びらと萼は5枚ずつ。トケイソウという和名は、3本の雌しべが時計の針のように見えることに由来します。
豊富な品種は、花を観賞するものと果実を食用するものに大別されます。クダモノトケイソウという品種から採れる果実がパッションフルーツで、ジャムやジュースとして流通しています。
毒持ち、としても知られるトケイソウ。有する毒は、全ての部分にあるわけではなく、葉にのみ含まれるハルマラ・アルカロイド。それに精神不安定や神経痛、不眠症などを改善してくれる作用があります。
英名のパッションフラワーのpassionはキリストの受難の意味。トケイソウの時計の針が刻んでいるのは、エルサレムより始まった生命の営みなのか…。
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オニユリ 7月号/No.170 
生きるもの全ての楽園、エデンの園で。蛇にそそのかされ、禁断の果実を口にしてしまったのはイブでした。楽園を追われたイブが、犯した罪を悔いて流した涙。地に落ちた涙の跡に咲いたのが、真っ白なユリの花―。西洋のユリの歴史は、ここに始まります。
日本でも『古事記(712年)』の中に既に登場しているユリ。
鉢植えにして楽しむようになったのは江戸時代、商売として栽培され始めたのが明治頃。今のように切花を目的に生産されるようになったのは、大正も半ばからです。
オニユリ、ヤマユリ、ササユリとほんの一昔前まで百合は野生のものでした。身近な植物だったからこそ、鱗茎(球根のこと)を飢饉のときの食物とし、つぶして軟膏を作っては、できものや火傷などの治療薬としたのでしょう。収穫まで3年もかかる鱗茎には、滋養強壮の効果があり、今では高級食材のひとつです。
また、乾燥した茎を煎じて飲めば、咳や熱を抑えてくれます。
そのむかし、多くの命を救ったオニユリを。今でも畑の隅や庭先に植えるのは、先人たちの教えの名残。炎のように燃える色のオニユリに、常しえの祈りを捧げたいと…。
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ツルニチニチソウ 8月号/No.171 
細い蔓。濃い緑色に混じる白い斑。ふわりと大地を覆うように蔓が広がり、冬にも青々とした葉を茂らせているニチニチソウ。風車のような形をした青紫の花が一つ、また一つと春の訪れとともに咲き始め、それは夏の終わりまで続きます。
その名の通り蔓を伸ばし、日々、新たな花を咲かせます。
キョウチクトウ科に属し、全草に毒であるアルカロイドを含んでいますが、ヨーロッパでは古くから血圧降下剤や催吐剤などとして用いられてきました。
春から秋へ。季節が廻るまで花を咲かせ、冬にも枯れることもなく、日陰にも耐え、何処までも蔓を伸ばしていく。
人々はその姿に不老不死の夢を見て、魔力を持っていると信じていたのだと。
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ウド 9月号/No.172 
蝉時雨が響き渡っていた夏が終わりに近づいて。高くなりはじめた空。それに負けじと背を伸ばし、青々とした葉を茂らせている植物が。花毬のような形を成して咲いている花は、小さく、白く。花は可憐な少女を彷彿させるのに、その背は2メートル、それ以上にも。この植物こそが、“体ばかりが大きくて役に立たないもの”の例えにされてしまったウドです。
若芽は天ぷら、ぬた、サラダなどにできますが、大きく育ってしまうと食べることができず、木材にもならない。そこから生まれたのが、“ウドの大木”という言葉。食せなくても、根茎に発刊や解熱、鎮痛の効果があり、かぜ、頭痛、関節痛に用いることができます。役立たずの代名詞であるウド。しかし、おいしく食べることができて、くすりにもなる。
そう思えば、ウドのほろ苦さも愛嬌のように見えてしまいます。
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ゲッケイジュ 10月号/No.173 
49.195km。オリンピックという大きな舞台で、最も早く走りぬいた者が手にする月桂冠。そのゲッケイジュの枝葉で作られた輪は、真っ先にゴールを踏んだ走者を讃える冠で、栄光の証といえます。
葉を煮込み料理にすると、たちまち部屋中に広がる香りが鼻の奥を刺激します。それは“おいしそう”と連想させる芳しさで、成分に唾液の分泌を促す作用があるため、食欲が増進します。
ほかにも、肝臓や腎臓の働きを活発にする作用もあります。
古代ギリシャの時代から、人々に受け継がれてきたゲッケイジュの利用法。
その力は衰えることなく、緑の冠としても輝かしき誉れを祝い続けることでしょう。
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パピルス 11月号/No.174 
ナイルの河畔、浅く、緩やかな流れの中に広がっていたパピルス。文明国であったエジプトの大地を見つめ続けてきた植物といえるでしょう。
水の中で一年を通して青々と茂り、2メートル、それ以上にも成長します。まっすぐ伸びる太い茎。その断面は三角形で、太さ6センチにもなるものも。
古代エジプトでは若い茎や芽を食用とし、船の帆の材料にもしました。その薄い布に軟膏を伸ばせば貼り薬になり、患部に巻けば包帯になったりも。
また、10世紀頃まで記録をする材料(布)でもありました。後に創り出される紙の原点は、このパピルスの布なのかもしれません。
太陽神を崇め、命の再生を信じていた遥かなるエジプトの人々。その魂を、そして文明を遺そうと…。
近年、エジプトではパピルスを育成し、古来の製法にて布(紙)を作り、古代の記録を復元しています。
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ヒイラギナンテン 12月号/No.175 
日当たりの悪い日陰でもよく育つヒイラギナンテン。葉の形はヒイラギで、果実はナンテンのよう。それがヒイラギナンテンの由来です。
とはいえ、ナンテンの果実は真っ赤に色づき、ヒイラギナンテンは葡萄色に。微かな香りも葡萄に似ています。早春に膨らんだつぼみが、咲きはじめるのは2月。小さな花ですが、彩り寂しい季節に、その黄色は鮮やかです。
中国の植物図鑑には、十大功労という名まえでざまざまな効能をもつ植物と記載されています。熱や毒を抑えるために茎や根、葉、果実を用いるということが。
春の訪れを歓び、輝くヒイラギナンテンの黄色。そして、揺れる花穂は、その思いを歌っているかのようです。
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