2006年 中冨記念くすり博物館だより

1月号/No.128 スイセン2月号/No.129 ジャノヒゲ3月号/No.130 イヌナズナ4月号/No.131 菜の花5月号/No.132 ボタン6月号/No.133 トリカブト7月号/No.134 ドクダミ8月号/No.135 ムクゲ9月号/No.136 オミナエシ10月号/No.137 ワレモコウ11月号/No.138 アメジストセージ12月号/No.139 シクラメン
ナンテン 1月号/No.128
ナンテンの名前は、中国名の南天竹(なんてんちく)の“南天”がそのまま用いられたものですが、この植物が多くの“難を転じる”力を持っていたことから難転(なんてん)と呼ばれたとの説もあります。赤く色づいた小さな実は咳止めに、また、生の葉を揉んだ汁は虫さされの痛み止めにもなります。さらに、生の葉を噛めば、乗物酔いを抑える効き目もあります。このようにいろんな難を転じてくれる植物です。昔から赤飯の上には、ナンテンの葉。誰もが知っている習慣ですが、これは彩りとしての美しさを添える他に、ちゃんと理由があります。ごく微量ですが、葉から発生するチアン水素に殺菌作用があるため、腐敗を防いでくれるのです。難転と表される縁起のよさ。そしてくすりとしての豊富な用い方。庭木で親しまれる植物なために、そんな身近なナンテンの力に改めて感心させられます。
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ジャノヒゲ 2月号/No.129
ジャノヒゲは北海道から九州、中国、朝鮮に分布するユリ科の多年草です。山林の陰などに自生し、庭園の下草としても栽培されます。草丈10〜30pほどの細長い葉が、龍のヒゲに似ていることからリュウノヒゲとも呼ばれます。夏に白色、または薄紫色の花を咲かせ、秋には球形の種子をつけます。果実にも見えるその種子は、成熟すると艶やかな濃い青紫になります。 くすりとして用いるのは、地下のヒゲ根の部分。生薬名を麦門冬(バクモントウ)と言い、滋養強壮・咳止め・利尿の効果があります。昔々の神代に宙を舞い、人々に崇められていた龍。どこまでも深い水底色した丸い種子は、どこか寂しげな龍の目のようで…。その実を鈴のように鳴らしてみれば―。奇才な力を持ちつつも、その身を隠した龍の言霊が聞こえてくるようです。
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イヌナズナ 3月号/No.130
冬の冷たい光が暖かな陽光に変わり始める頃。野山、道の端には春の到来を告げる草花が次々と芽吹き、花を咲かせ始めます。その中には「イヌナズナ」の姿も。
可憐で小さな黄色の花が咲くイヌナズナ。名前の通り、ナズナに良く似た花ですが、ナズナのように食用にできない、役にも立たない、という意味から“イヌ”ナズナ、と名づけられました。
くすりとするのは種子。「テイレキシ」といい、利尿や緩下、または咳止めのくすりとして用いられています。
草や木が豊かに茂る場所ではなく、道の端など草の少ないところで花を咲かせるイヌナズナ。車や人の足に虐げられながら、それでも可憐な花を咲かせ、種を落として仲間を増やしていくイヌナズナ。かよわいようで逞しい春の花。その逞しさはつらい冬を乗り越え、春を迎える喜びを誰よりも知っているからこそ生まれてくるのではないでしょうか。
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菜の花 4月号/No.131
見渡す限りに黄色い菜の花が広がるさまは、夢のような美しさ。まるで、お伽話に出てくる国にでも迷い込んだようですよね。 その景色から思い浮かぶのは「菜の花ばたけに入日薄れ…」での出だしで始まる“朧月夜(おぼろづきよ)”。春の訪れを告げる花として、私たち日本人には馴染み深い花の1つでしょう。菜の花は中国より弥生時代には伝わっていたといわれます。栽培が始まったのは平安時代で、種から油を採取するためでした。そんな菜の花が、野菜として栽培されるようになったのは、明治時代になってから。蕾のうちに収穫したものに、カルシウムや鉄分、ビタミンC、たんぱく質などが豊富に含まれています。血液をさらさらにしてくれる効果もあります。ほろ苦い菜の花ですが、おひたしやてんぷら、お吸い物にと料理法は色々。少女の笑顔のような黄色い花。菜の花の咲く頃に しとしとと降り続く雨。この雨を菜種梅雨(なたねづゆ)と呼ぶのだそうですよ。
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ボタン 5月号/No.132
中国産のボタンは、日本でも長く親しまれてきた花の1つです。昔から「立てばシャクヤク、座ればボタン」と美人を例えるときの花としても知られており、何枚もの花びらを重ね合わせた見事な大輪の花を咲かせます。「百花の王」、「富貴草」「二十日草」「深見草」などたくさんの別名を持っており、昔の人々がこの花へ強い関心を寄せたことがうかがえます。また、観賞用としてだけでなく、“牡丹皮”と呼ばる根の皮が、解熱、鎮痛や生理不順などの婦人病のくすりとして用いられてきました。他にも、防虫効果があることから、虫のつきやすい生薬の保存にも利用されています。かわいらしい毬(まり)のようなつぼみをほころばせ、艶やかな大輪の花となるボタンを見ると、精一杯に咲き誇る力強さを分けてもらえるような気がします。
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トリカブト 6月号/No.133
トリカブトとう名は花の形が雅楽に用いる烏帽子(えぼし)に似ていることからつけられました。高さ30〜90cmくらいまで成長する多年草で、9〜10月頃、濃い紫色の花が咲きます。古代ローマでは政治権力のために継子(ままこ)を殺すことが多く、毒殺用に使われていたことから、“継母の毒”と呼ばれました。また、ドイツでは“悪魔の草”と恐れられ、古き時代には毒草の王者として君臨していたトリカブトです。毒成分は全草に含まれていますが、特に強いのは根の部分です。根を切り取ったとき、切り口の色が変わるのは毒があるからで、変色の速度が速いほど強い毒性を持っています。しかし、毒と薬は紙一重。その言葉通り、漢方では強心、利尿薬として使用します。神が特別に与えたかのように美しく高貴なこの花に、毒が隠されていようとは…。それも、恐ろしい猛毒が。
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ドクダミ 7月号/No.134
初夏から夏にかけて咲く、薄黄色いの花穂をつけた白い花。深緑の葉には赤の縁取り、そして特有のにおいがします。その昔、ドクダミの強い臭いは毒があるからと思われ、「毒溜め(どくだめ)」と呼んでいたことが名前の語源です。しかし、毒があるどころか、十種の効き目があるものとして、長く暮らしに息づいてきました。その効き目の多さに由来して、ジュウヤクとの生薬を持つ薬用植物です。そうわかると、苦味を感じさせる臭いも、いかにも効きそうに思えます。乾燥させた葉を煎じて飲むと利尿、便通、血圧降下の作用が、また青汁は胃痛に効きます。花が咲いている時期に収穫したものが『花ドクダミ』で、薬効が多いそうです。野山や庭に咲くドクダミを見ていると、しばし時を忘れてしまいます。清楚な気品漂うその花が美しく、そしてとても慎ましやかで…。
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ムクゲ 8月号/No.135
夏の空にまっすぐ伸びる枝に、白や桃色の花を咲かせ…。
原産の中国ではムクゲは古くから薬用として使われ、多数の生薬を解説した書物「本草綱目(李時珍・著)」にも皮膚病や下痢に効き目がある植物としてその名を見ることができます。蕾は木槿花(もくきんか)、樹皮は木槿皮(もくきんび)、果実は木槿子(もくきんし)という生薬名で、それぞれが症状に応じて用いられます。万葉の歌にも詠まれているほど、日本でも古来より愛されている花です。
朝開いて夕方には閉じてしまう花びら。まるで白い蝶のようなムクゲの花。その儚さはしとやかに美しく。それでいて青空に強く映える眩しさは、誰の心をも惹きつけてやみません。万葉の時代より、それは今もかわらずに。
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オミナエシ 9月号/No.136
秋を誘うように、揺ら揺らと。赤トンボが飛び始める頃、オミナエシの花が咲き始めます。すらりと伸びた細い茎の先に集まって咲く小さな花は、濃い黄色。かわいらしい姿とは裏腹に、臭いのが玉にきずです。その臭いが「醤(ひしお)」に似ているので、「敗醤(はいしょう)」という生薬名がつきました。敗醤は根を乾燥させたもので、利尿効果があります。オミナエシの名前の由来は、粟飯の別名の女飯(ヲミナメシ)が転じたもの、白花を咲かせるオトコエシに似ているからオンナエシ、それがオミナエシになった説など様々で、真相は定かではありません。
「女郎花」と著される秋の花。それは秋風にたゆとうオミナエシの姿が、苦界に身を沈め、女郎とさげすまれた女たちの秋風に涙する姿に重なって見えたからなのかもしれません。
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ワレモコウ 10月号/No.137
木の実のような、丸くて赤い花を咲かせるワレモコウ。
華奢な茎先に咲くその花は、風が吹けばゆらゆら揺れて。やさしい風合いの山野草です。
そんなワレモコウを「吾亦紅」と綴ったのはいにしえの女人なのかも…。鮮やかではないけれど、「吾もまた赤い」と言いたげに紅色を深めようとする姿に、自身が重なって見えて…。いつもよりも赤い衣を纏い、紅を引くのは、彼の君への寄せる恋心に気づかせたいから。そんな自分の思いと似た花を「吾亦紅」と名づけたのかもしれません。花としては地味でも、根茎に止血ややけどの効果があるワレモコウ。風に抗うことなく、ただ揺れてくるようで、内に秘めた真の強さを感じさせる花。だからこそ、どこからか聞こえてくる「吾も紅…」の言霊み、誰しも秋の野に紅色の姿を見つけるのでしょう。
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アメジストセージ 11月号/No.138
秋が深まるにつれ、ぐんぐん空に向かって茎葉を広げるアメジストセージ。いくつもに枝分かれした茎は、互いが競い合うように背丈を伸ばし、1メートルほどの高さで群生します。
頬に射す陽も和らぐ10月頃より、ビロードのような光沢の花色が深まります。薄紫色だった花穂が、しだいに魅惑的な濃い紫へと。くすりとなるのは、とがった細い葉。夏の葉を採取し、乾燥させたものを用います。紅茶に入れて飲めば胃の調子を整え、数枚の葉に熱湯を注いだものは、疲労や身体のほてりを和らげてくれます。
誰の心をも惹きつけてしまう、秋風に揺らぐ紫色した花穂たち。名前の通り美しい紫水晶のようなアメジストセージは、まさに花の宝石といえるでしょう。
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シクラメン 12月号/No.139
春を待ちわびる草木たちが、暫しの眠りについてしまう寒い冬。冴えた空気の中、真っ赤に花咲くシクラメン。冬の花として印象の強い花ですが、実は温かな地中海沿岸の原産で、根茎を下剤として役立てることができます。古代ローマの時代には、ヘビの噛み傷を治す力があると信じられ、庭に植えられたのはお守りとしてでした。日本に入ってきたのは明治時代。かがり火を思わせる花の形から「カガリビバナ」と呼ばれたり、「豚の饅頭」という変わった呼び名も持っています。これはトルコやイスラエルで野生の豚がシクラメンの地下茎を食べていたことに由来します。
灯りのような花の根本を覗いてみると、丸々と太った根茎が頭を覗かせているはず。その姿はやっぱり「豚の饅頭」なのだと、笑ってしまいそうになります。
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