| スイセン 1月号/No.116 |
| 冷たい空気に心も凍る冬の日、空の青ささえ冷たく滲み、草木もかさかさと寂しげな音を奏でています。そんななか、涼やかな香りで野を満たす花があります。乳白色と黄色で形作られる水仙です。ギリシャ神話にも登場するスイセンは、美少年ナルシスが姿を変えたものだと言われています。湖の水面に映る自身の姿の麗しさに心奪われたナルシスは狂おしいばかりの想いにかられ、湖に身を投げたのです。ナルシスが湖の泡と消えると、湖畔には一輪のスイセンが残りました。 スイセンは鱗茎(りんけい/地中にある茎)をすりおろした汁をできものなどに塗って薬用としますが、内服すれば死に至ることも。命を落としてしまったナルシスは甘美な誘惑に負け、スイセンを口にしてしまったのでしょう。せめて揺れる水面に触れるだけに済ませておけば、熱を帯びた心の腫れを治めることができたのかもしれません。 |
| ツバキ 2月号/No.117 |
| ツバキは、全国至る所で見られる日本の代表的な花の一つです。その種から採れる油は髪を保湿する働きがあり、また、食用、軟膏基剤などにも用いられます。民間薬としては、乾燥した花を刻み、熱湯を注いで飲むと滋養・強壮の効果があります。ポルトガル人によって日本からヨーロッパへと渡ったツバキは、ヨーロッパ諸国においても人々を魅了し、“日本のバラ”と呼ばれ親しました。ツバキは漢字で「春の木」と書き、うららかな陽気の訪れにはまだ遠い時期に、一足早い春の到来を告げるように花をつけます。寒い風が吹く中で艶やかな紅い花を咲かせるツバキには『気取らない優美さ』という花言葉があります。冬の静かな世界を紅く色づかせる美しさは、決して主張しすぎることのない和みの美。凛とした姿はいつまでも残していきたい日本らしさをまとっているのかもしれません。 |
| 沈丁花 3月号/No.118 |
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春の訪れを告げる花のひとつ、沈丁花。花びらの内側は白、外側は薄い紅紫と、その花色に派手さはありませんが、手まりのような花姿は愛らしく、香りのよさから庭木として好まれます。中国原産の沈丁花、日本に入ってきたのは室町時代とされています。香木で名高い沈香や丁香のような香りを併せ持つことから、その名が作られたといわれています。また、中国では千里の彼方まで香りが届くとして、「千里香(せんりこう)」とも呼ばれます。3月から4月の花を日干しにしたものが生薬の「瑞香花(ずいこうか)」。これを煎じて服用すると、咽喉の痛みや腫れ物に効果があります。さらに、葉を火であぶったもほを腫れ物に塗るとよいとされています。 まだ寒い早春に甘い香りを漂わせる沈丁花。“幸福の到来”という花言葉通り、春とともに幸を運んでくるような、そんなやさしい香りがします。 |
| スミレ 4月号/No.119 |
| 温かな陽射しが降り注ぐ四月。いち早く春の訪れを知らせてくれるかのように、次々に咲き始めるスミレ。約400種もの品種があり、世界中で愛されている花の1つで、日本でも56種類が自生しています。スミレの和名は、その昔、“すみいれつぼ”と呼ばれた“墨壷”に花の形が似ていたことから、短縮してつけられたとされます。花色は、濃い紫に白、黄色など。大地を包み込むように咲く様は、まるで花柄のハンカチを広げたかのようです。くすりとしては、全草を生のまま塩もみして腫れ物などに用います。 花言葉は“誠実”。英雄ナポレオンもスミレを愛した1人でした。妻の誕生日には、毎年この紫の花を贈ったとか。自分がもっとも愛する花を、愛する人へ捧ぐ。それはきっと永遠の愛の証で、ナポレオンは花言葉に想いを重ねていたのかもしれませんね。 微かでしかない紫の香り。その慎ましさが、高貴とさえ感じられます。 |
| シャクナゲ 5月号/No.120 |
| シャクナゲが華麗に花開くのは清々しい初夏。4〜5月にかけて、枝先に次々と花を咲かせます。中国や西洋では「花木の帝王」と呼ばれ、ネパールの国家でもあるシャクナゲは、世界中で愛されている花のひとつです。イギリスより日本に渡ってきたのが、明治39年。その歴史は比較的浅く、全国一の生産量を誇る新潟県に伝わったのも、明治末期から大正の初めとされています。新潟県に伝わった『西洋シャクナゲ』の品種改良により、多種の国産品が生まれました。世界で1000種以上もの野生種があるのですが、高山や深山の寒いところに育つので、平地での栽培は難しく、園芸品種が多く求められるようになりました。葉に薬効があり、強壮や利尿などに用いられます。花言葉は荘厳。放射状に生えた葉の中心に、10数個の花がまとまって咲く様は、まさにそんな印象です。 |
| クチナシ 6月号/No.121 |
| 梅雨のちょっと蒸し暑い頃になると、どこからともなく漂う甘い濃密な香り。露に濡れた純白の花は、甘美と清楚さを合わせ持ち、まるで少女のよう…。柔らかな花びらは触れると壊れそうで、高貴な魅力があります。日本、中国、台湾などの暖かい山中に自生するクチナシは、秋になると美しい橙色の果実を結びます。その実は飛鳥時代より、草木染の染料とされてきました。当時、永遠の光を象徴したのが金色で、それに最も近い黄色に染まることから、クチナシで染めた衣装を着るのは、高貴なものしか許されなかったそうです。 この果実を乾燥させたのが、生薬名、山梔子(さんしし)で、消炎・解毒・解熱などの効果があります。普通、果実は熟した皮が裂けるのに、クチナシの実は開きません。「口無し」の名には、そんな意味がこめられているとか。 |
| ナデシコ 7月号/No.122 |
| 清楚で可憐な花、ナデシコ。原産地は日本・中国で、草丈は20〜100cmくらいまで成長する多年草です。夏から初秋にかけて咲く花は、赤、ピンク、白色と…。川原や日当たりのよい場所に、やさしく風に揺れる姿を見ることができます。愛しさより頭を撫でる我が子のように感じる花として、「撫でし子」と表されたりもします。開花期の全草を乾燥させたものを生薬名、瞿麦(くばく)、瞿麦子(くばくし)といい、利尿・通経・膀胱炎などに処方されます。中国から入ってきた品種と区別するために、「大和撫子(やまとなでしこ)」と名づけられた日本産のナデシコは、奥ゆかしい日本女性の代名詞として引用されます。万葉の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)は、この花を秋の七草として万葉歌に詠みました。いにしえより変わらず人々に愛され続けているナデシコは、今日もどこかの川原で、楚々と揺らいでいることでしょう。 |
| ゲンノショウコ 8月号/No.123 |
| 夏の土用の丑の日に野山を歩く人々。昔、よく見られた薬草摘みの光景です。探しているのはヨモギ゙やドクダミ、白や紫紅の花を咲かせたゲンノショウコ。“飲めばたちまち効く”という“現によく効く証拠”からつけられた名付けられたこの花は、古くから下痢止めの薬草として用いられていました。それだけでなく、お茶として飲めば胃腸を健康に、ドクダミやエビスグサの種子と合わせて煎じたものは高血圧予防に、冷え症にはゲンノショウコ風呂、と生活の中に溶けこんでいました。ゲンノショウコには多くの別名があります。イシャイラズ、タチマチソウ、どれもこの花がくすりとしてどんなに優れているかを表しています。可憐な容姿とは裏腹に、人々を病からたくましく守ってきたのです。けれども、小さなゲンノショウコのための場所は、次第に失われつつあります。今度は私達が、小さな花を優しく守ってあげたい、そう想いませんか? |
| フジバカマ 9月号/No.124 |
| フジバカマは秋の七草の一つとして、古くから親しまれてきた花です。奈良時代頃、中国より薬草として伝わり、利尿・解熱などに用いられてきました。生のままでは香りはないのですが、刈り取ったものを乾燥させると、桜餅のような香りがします。その香りを好んでか、中国では花をかんざしにしたり、香り袋にして身につける女性が居たそうです。日本では装飾用で使った記録はないのですが、防虫剤や芳香剤としての用い方はされていたそうです。暮らしで役立てられる以外にも、源氏物語や和歌など文学作品にも登場し、日本の文化に深く、長く馴染んだ花といえます。しかし、今ではほとんどのフジバカマが園芸品種で、野生のものは絶滅が危ぶまれています。秋の初めに咲く、淡い紅色をしたフジバカマ。その儚げに揺れる姿を見ていると、この素朴な花が失われることなく、いつまでも咲き伝えられることを願ってやみません。 |
| ススキ 10月号/No.125 |
| ススキは日本中、野山や山地、土手や河原など日当たりの良いところにごく普通に見られる野草です。古くより秋の七草のひとつとして親しまれてきた植物で、残暑より花が咲き始めます。 『すくすく育つ草』の意味から名前がついたと言われています。晩秋に採取する根茎(こんけい)に利尿の効き目があり、また腫れ物にも用いられます。秋風に揺れる銀色の穂が、静かな秋を心にまで運んでくれるようです。 |
| カリン 11月号/No.126 |
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愛らしい薄紅色のカリンの花は、春の訪れを告げ、心和やかにしてくれます。そして、秋になると、洋ナシに似た実を結び、黄色に色づくとあたり一面に香りを放ちます。その香りは甘くて強く、通りがかる人の足を止めてしまうほどです。 江戸時代に中国より伝わったとされるカリン。薬効のある果実は、咳止め、利尿、疲労回復などに用いられてきました。その実は生でも食べられるように見えますが、水分が少なく、とても堅く味も渋いため、生では食べられません。砂糖漬け、蜂蜜漬け、ジャムなどにすることで食べることができます。 また、強い香りを利用して、部屋の芳香とされたりもします。 そんな色々な効用から、中国では「杏一益、梨二益、花梨百益」という言葉があるそうです。健康と暮らしに役立つ、カリンの恵みをいつまでも大切にしたいものです。 |
| キンカン 12月号/No.127 |
| 中国原産のキンカン。夏に小さな白い花を咲かせ、花が終わると、まん丸い飴玉のような実を結びます。紅葉の始まる頃、黄色に色づいたら収穫です。その果実を砂糖漬けにしたものや砂糖で煮た煮汁が、風邪や咳止めに効きます。ビタミンCの他、ビタミンB1、B2も豊富で、柑橘系の中ではもっとも栄養価の高い果実です。疲労回復にはキンカン酒、そして甘露煮、ゼリー、マーマレードなどにも加工されます。とても古くはみかんの一種と考えられていましたが、実よりも皮の方が美味しく実が小さいことから、みかんの仲間とは区別されるようになりました。これからますます寒さが厳しくなります。キンカンで風邪を防いで、慌しい年の瀬も元気に。そして健やかな新年をお迎えください。 |