| 正月飾り 1月号/No.104 |
| 田代地方で配置売薬業を営む人々には、昔より伝えられている年始の行事があります。それは、日常利用する行商道具を供え、その年の商売繁盛と健康を願うものです。田代売薬が盛んだった頃、売薬さんはダイダイを飾った餅と米、塩、お神酒などを床の間にお供えし、それらと共に柳行李などを飾りました。また、床の間には神農が描かれた掛け軸をかけ、その年の商売繁盛を祈願しました。神農とは、古代中国の皇帝とされる人物で、薬と農業の神様でもあります。神農は草を食べ、その草が薬草かどうかを自分の身体で試し、それを人々に伝えていったと言われており、日本でも薬業関係者に信仰されています。柳行李などの商売道具には神が宿っており、その神様が商売を繁盛させてくれると信じていた売薬さんの想いは、柳行李からアタッシュケースに変わった現代でも受け継がれ、正月飾りは今も行われています。また、当館でもロビーにて売薬さんの正月飾りを行い、お客様に紹介しております。古くより伝わる信仰心や伝統行事を私たちは改めて見なおし、後世まで伝えていくべきではないでしょうか。 |
| アミガサユリ 2月号/No.105 |
| アミガサユリは中国原産のユリ科の多年草植物で、江戸時代中期頃、日本へ渡来しました。鑑賞用として用いられる他、薬用としても栽培されています。3〜4月頃に薄い黄緑色の鐘型の花が下向きに咲き、30〜80cmの高さになります。花の内側に紫色の網状の模様が見られる為、アミガサユリ(網笠百合)の名前が付けられました。鱗茎 (りんけい/地下茎の一部)の部分は「貝母(ばいも)」と呼ばれ、2片が向き合い、1片がもう片方を抱くように重なり合っています。その形がハマグリに似ている事から、この名前があります。この貝母の部分が薬用として用いられます。貝母に砂糖を加え煎じて服用すると咳止めとなり、その他、去痰や止血、利尿などの効果もあります。また、早春、花がない時期に開花するこの花は、花の色が渋い事もあって、茶花(茶室の床に生ける花)としても用いられます。 |
| サクラ 3月号/No.106 |
| 桜の種類は非常に多く、園芸種まで入れると300種以上。その中でも最も多く栽培されているのがソメイヨシノで、高さ7mにまで成長する落葉高木です。4月下旬、葉の出る前に木を覆うように淡い紅白色の花が咲き、花が満開になる様子は華やかで美しく、殆どの桜の名所に植えられています。「ソメイヨシノ」と言う名は明治初期に東京・染井村の植木屋が売り出したことから命名されました。薬用となるのは樹皮で、生薬名は「桜皮(オウヒ)」、咳を鎮めたり、痰を取り去る効果があります。また、解毒の効果もあり、古くは食中毒に用いました。主にソメイヨシノ、ヤマザクラが利用され、6〜8月に樹皮を剥がして日干ししたものを煎じて用います。更に、薬効はないのですが花は塩漬けにして桜湯に、葉も塩漬けにすると桜餅に使うことが出来ます。華やぐ桜の木の下で、桜湯を飲みながら春を感じてみてはいかがでしょう? |
| 菖蒲 4月号/No.107 |
| 菖蒲は東南アジアから日本全土に広く分布しており、小川や水辺に自生する常緑の多年草です。葉は剣型で芳香があり、5〜6月頃に白色の花を咲かせます。葉の香りが強いことから魔除けの効果があるとされ、ヨモギとともに家の軒にさせば邪気を払う、葉の形が剣型なことから病気を退けるなどと信じられてきました。現在でも菖蒲で地面をたたき、悪い気を追い出す「菖蒲打ち」という行事が残っているそうです。根茎の部分は生薬として用いられ、去痰や腹痛、下痢などに効果があります。また、入浴剤として利用すると、リウマチや神経痛に作用します。菖蒲は端午の節句の時期に花が咲くことから『世の中で負けないようにたくましく育て』という祈りを込めて家々で飾られてきました。 |
| ノイチゴ 5月号/No.108 |
| ノイチゴはワイルドストロベリーとも呼ばれ、その名は広く知られています。ヨーロッパ・北アメリカ原産で、バラ科の多年草です 夏に白色の花を咲かせ、秋には赤や白色の小さな実をつけます。繁殖力が強く育てやすいこともあり、鉢植えやガーデニングに最適です。夏から秋にかけて親株からツル状の茎が伸び、すぐに根をはることから、“幸せを呼び、家庭円満の象徴”とされ、人気のハーブとなりました。普通のイチゴより小さくて可愛いノイチゴの果実は味も香りもとても豊かで、お菓子やジャムに利用できます。また、ビタミンや鉄分などが豊富なため、貧血、糖尿病、腎臓や肝臓の疾患に効果があります。つぶした果実を外用すると、皮膚の炎症、火傷に効き、さらに葉、茎には利尿効果、根には胃腸の働きを整える作用があります。小さく可愛らしい姿からは想像もできないほど働き者のノイチゴ。これからも私たちに幸せと健康を運んでくれることでしょう。 |
| 紫陽花 6月号/No.109 |
| しとしとと降る雨の中に鮮やかな色を見せる花、紫陽花。その名は“集める”の「あづ」に真青を意味する「真藍(さあい)」、「アヅサアイ(集真藍)」が変化したものです。私たちが目にする青く手まりのような形をした紫陽花。これは古い時代に日本原産のガクアジサイが改良されたものです。花びらと思われる部分は萼(がく)で、本当の花は萼の上に小さく存在しています。くすりとして用いるのも萼で、乾燥させたものを煎じて飲むと熱を下げる効果があります。蒼から赤、様々に色を変える紫陽花。その姿から“移り気”という花言葉を持っていますが、他にも“辛抱強い愛”という言葉も持っています。それは厚い雲の上の太陽をじっと待ちつづける姿を意味しているのではないでしょうか?いつ晴れるとも知れない陰鬱な空を見上げる花。「紫陽花」という漢字は、雲間から射す陽の光が雨露に煌いている姿に似ています。 |
| ウイキョウ 7月号/No.110 |
| ウイキョウは、南ヨーロッパから西アジアの原産のハーブで、別名「フェンネル」として有名です。高さ1〜2mまで育ち、5〜8月に黄色い小さな花が傘を開いたようにたくさんつきます。全草に甘く爽やかな香りがあり、料理や香水などに用いられます。今日では、「魚のハーブ」と言われるほど、魚料理に欠かせないスパイスとして利用されています。実はこのウイキョウ、「ギリシャ本草」というヨーロッパ最古の薬物書では「マラソン」と呼ばれています。紀元前490年、1人の兵士が戦報を伝えるために走ったマラソンまらアテネまでの42.195kmの間にこのウイキョウが咲き乱れていたことから「マラソン」と呼ばれました。古くは葉や根を絞ったり煎じたりして目薬などに使われました。今では芳香健胃剤として漢方薬に利用されます。さらに、種子は長寿に、種子から作ったお茶はうがい薬、去痰薬に効果的です。 |
| キキョウ 8月号/No.111 |
| 日当たりのよい草地に咲く、青紫色した釣鐘型の花。キキョウは山野に自生する多年草で、日本から中国北部に分布しています。しかし数が減少しており、絶滅の危険性のある種に分類されています。庭園で栽培されている多くは観賞用の園芸品種で、花色も薄紫や白などあります。名前の由来は、「桔梗」を音読みした「キチコウ」が訛ったと言われています。 蕾は風船状にポンとかわいく膨らんでおり、「バルーンフラワー」との呼び名もあるそうです。秋の七草のひとつであるせいか、秋の花と思われがちですが、6月下旬より咲き始め、秋の訪れとともに花は終わります。山上憶良が詠んだ秋の七草の「朝顔が花」はキキョウのことです。薬用となるのは根茎で、生薬名を“桔梗根”と言います。せきや痰を取り、気管支炎などに効きます。症状が薬用人参に似ていることから、過去には薬用人参の中に混入されることもあったとか。 |
| ハギ 9月号/No.112 |
| ハギは古くから秋を代表する植物で、秋の七草にも取り入れられています。日本各地に自生するマメ科の植物で、7〜9月に蝶の形をした赤紫色の花を咲かせ、高さ1〜2mにもなります。ハギには10数種ほどあり、ヤマハギがその代表格と言えるでしょう。万葉の頃には芽子、波疑、などの字で「ハギ」と読んでいましたが、その後、“秋に咲く草”という事から「萩」の文字が作られました。また、方言でトキワ、ハギッコなどといった呼び名もあります。ハギは茎の皮をはいで簾を作ったり、染料にしたりします。また、その姿は、文箱や硯箱、鏡に描かれるなど、美術的な題材としても選ばれています。さらに薬用として、根を煎じたものを婦人病ののぼせやめまいに用いることができます。蝶が集い、舞っているかのようなハギの姿は、何百年もの時を経ても尚、変わることなく私たちを魅了しつづけています。 |
| 枇杷葉湯売り 天秤かつぎ薬箱 10月号/No.113 |
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「烏丸枇杷葉湯(からすまびわようとう)、おめしあってお試し下さい。くわくらん(霍乱)・めまい・立ちくらみ全ての夏の病に効能あり」 これは京都の枇杷葉湯売りの売り声です。枇杷葉湯とは、ブドウ糖やクエン酸を含む枇杷の葉に、肉桂や甘茶などを混ぜて煎じた清涼剤で、夏負けや暑気払いに効果があります。ちなみに「烏丸(からすま)」とは京都の烏丸薬店のことで、枇杷葉湯売りの本家です。枇杷葉湯は、肩に担いだ天秤棒に桶や笊を提げて商品を売り歩く「振り売り」で売られていました。この振り売りの際に用いられた天秤かつぎ薬箱を、当館2階で新しく展示を始めました。これは、江戸から明治にかけて枇杷葉湯売りに使用されたもの。昔はいろいろな場所へ振り売りに行っては琵琶葉湯を試飲してもらい、気に入ってくれた方に粉末状の薬を販売していました。今にも売り声が聞こえてきそうです・・・。 ※霍乱(かくらん):日射病・下痢など |
| ツワブキ 11月号/No.114 |
| ツワブキの大きな特徴は、ハート型の葉。日本では本州・四国・南西諸島・九州の温暖な地域に広く分布しているキク科の多年草です。海岸の岩場に自生しているほか、日本庭園の石組みの間や下草としても植えられます。葉につやがあり、フキの葉に似ていることから、“艶葉蕗(つやはぶき)”と呼ばれ、それが訛って「ツワブキ」に変化したという説があります。花が少なくなる10〜12月に黄色い花を開くツワブキは、殺風景なこの時期にひときわ目立ちます。派手さはありませんが、穏やかで日本的な落ち着きのあるところが好まれています。また、ツワブキのつぼみや花、葉は食用としても用いることができます。さらに、抗菌作用のある葉から取れる青汁はできものや切傷、やけどに民間薬として利用されます。 |
| センリョウ 12月号/No.115 |
| センリョウは、四国や九州、沖縄、インド、中国などに自生する小さな木です。高さは50〜100cmで、6〜7月頃に小さな白い花を枝先に咲かせます。その後、直径5mmほどの実が数十個つき、冬になると鮮やかな赤、または黄色に色づき、お正月花としても用いられます。マンリョウと似ているために間違われることもしばしばですが、葉の下に隠れるように実をつけるマンリョウに対し、センリョウは葉の上に実が空を見上げるようについているのが特徴です。センリョウ・マンリョウ、それぞれ「千両」・「万両」と漢字で書きますが、他にも百両(唐橘/からたちばな)、十両(藪柑子/やぶこうじ)などがあり、いずれも縁起のよい木として植えられてきました。センリョウの乾燥させた枝葉は、リウマチや神経痛、風邪の引き始めに効果があります。 |